うるとらんぷす

「チェルシー」という単語に対する反応が人より2.7倍速いチェルサポによる備忘録。

〜The Guardian|2人のコスタ〜


Guardianにコスタのインタブーが記載されていたので、日本語におこしました。プレミアへの適応やチェルシーに至るまでのキャリア、故郷でのプロジェクトなど、なかなか知れないコスタを見ることができましたので是非。

元記事はこちら



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  午を過ぎた頃、郊外サーレーにある隠れたフォトスタジオ でジエゴ・コスタは忙しそうにしていた。現在、このチェルシーのストライカーは試合から離されている。それでも、サスペンションの期間に体を鈍らせないよ うにとコバムで行われる練習に参加し、いつも通りの楽しい時間を過ごした。スポンサーとのスケジュールで追われているものの、やはり3試合の出場停止は彼 を退屈に、そして憂鬱にしている。復帰戦となる来週火曜日のPSG戦までは、まだ少し待たなければならない。


ここ数週間ピッチか ら離れ、先月末にマンチェスター・シティスタンフォード・ブリッジを訪れた時にはハムストリングを痛めていたセスク・ファブレガスと共にイーストスタン ドに腰を下ろし、ヴィラ・パーク、続いてエバートンが惜敗したミッドウィークの試合でもチームのマッサージ師に囲まれダグアウトで戦況を見つめていたコス タはこう言う。

「プレーできないのは憂鬱だ。ピッチでチームメイトを助けてやることもできないなんて。試合が拮抗していて激しいと、ダグ アウトで居ても立っても居られなくなる。もし試合の行方が決まっていたり、チームが相手を支配しているようなら落ち着いて観ていられるんだけど。オレはす ぐアツくなるんだ。」

水曜日のエバートン戦での、ハラハラするような場面でダグアウト前のバリアを叩く姿は、彼の試合への心意気を確かに証明している。

中 立的な立場で見れば、コスタの今の状況を招いたのは紛れもなく彼自身だ。仮にキャピタル・ワン・カップ準決勝リバプール戦において故意的にエムレ・ジャン の脛を踏んでなかったとすれば、マイケル・オリバー主審や定期独立委員会によって暴力行為とみなされ、サスペンションを受けることも無かったはずだ。彼の 監督はいつものようにこの決定に賛同せず、怒りに溢れている。当のストライカーは、この件に関しての自分の意見は十分伝えたとし、"無罪"を主張するスタ ンスをとり続けている。

「故意的なものではないさ。ビデオを見てみてよ。」

彼の曲がらない姿勢は明らかだ。このアプロー チを変える必要もない。CLで再びピッチに戻ってきた時には、今季マンチェスター・シティのヴィンセント・コンパニーやパブロ・サバレタリバプールの マーティン・シュクルテルやママデュ・サコー相手にしているように、パリの守備の心臓部であるチアゴ・シウバダビド・ルイス相手にも変わらずアグレッシ ブで自信を削ぐようなプレーをすることだろう。または、もしかすると、昨年4月にアトレティコの選手としてスタンフォード・ブリッジに足を運びジョン・テ リーとマッチアップした時のようかもしれない。競争力溢れる精神はこれまでも、これからもずっと受け継がれていく。彼は自身で、ピッチ上では"自らを変身 させる"と言う。その獰猛さ無くしては、恐らくプレミアリーグ19試合で17ゴールを挙げるような選手にはなってはいないだろう。

ジャンの一件以降、主審や専門家たちからの厳しい目であったり、相手選手が試合中のコスタとの接触を利用してくるといった事は避けれない。"喧嘩は買う"選手であることはロジックが示している。

「オレは長いことディフェンダーからの標的とされてきて、彼らに蹴られることにも慣れている。」

彼のこの言葉に頷く、インタビューを取り囲んでいたエージェントたち。

「も うこういった事に関しては慣れっこなんだ。オレだってファイトするしタックルもする。ちょっとした接触でグチグチ言ってくるようなディフェンダーも中には いるけど。でもオレの中では、試合が終わったその瞬間、試合中に何があってもそこで線引きをする。お互いに握手をしてピッチに全て置いていくんだ。

レフェリーたちは、オレが怒る前にどれだけ殴られたり蹴られているかをよく見るべきだよ。まあここイングランドのレフェリーはみな優秀でプロフェッショナルだから、ピッチ上で起こることをよくわきまえているし、きちんと理解していると思う。」

「試 合前に、誰か特定の選手をターゲットにしてそいつの弱みを利用してやろうとなんかは思わない。キックオフの前に誰かをターゲットにしたとして、その選手と 試合中にファイトをしたら本来オレが試合ですべきことから集中が削がれてしまうし、うまくプレーができなくなる。チアゴ・シウバダビド・ルイスと乱闘す るために試合に向かったとすれば、自分自身のプレーをコントロールすることができなくなるだろうね。彼らはふたりとも偉大な選手であり、偉大なディフェン ダーだ。ピッチで言い合いになるかもしれないし、接触だってあるだろう。でもそれは意図するようなことじゃない。その時の感情によるものだ。闘いなんだ。 オレの目的はゴールすることであって、チームのためにできる限りの良いプレーをすることにある。」

コスタは、昨シーズンのラ・リーガにお ける被ファール数最多の選手だ。被ファール数はクリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシをも上回る。当時のチームメイトたちはその逞しさを歓迎し、 インスピレーション、ひいては活気の源とした。ヴィセンテ・カルデロンとベルナベウでは、お決まりと言うほどにセルヒオ・ラモスとの熱い闘いが見られたも のだ。それでも、そんなコスタをスペイン代表に入るよう説得したのもこのディフェンダーである。

この荒々しい獰猛さこそ、彼の波瀾万丈な フットボールキャリアの産物だ。ヨーロッパの豪華なクラブのアカデミー、ではなくブラジルのセルジーピ州ラガルトという街のストリートで育て上げられたコ スタは、14歳で従兄弟の衣服洋品店の手伝いをするために親元を離れ、2000km離れたサンパウロへと移った。そこで叔父のエジソンと暮らした。エジソ ンの営むお店にはよく地元のサッカーコーチらが足を運んでいた。そんな中で、市の南部にあるファヴェーラ(貧困街)のバルセロナ・エスポルティーボ・カ ペーラというクラブでコスタの名は知られてゆく。月に£100ほど稼いでいた当時のコスタは、最初のファーストチームの練習で、チームで最も有望視されて いたフェリペというディフェンダーを、殴ったのである。"プロフェッショナル"としての感覚を味わった瞬間だ。

ユースで印象的な活躍を見 せるも、サンパウロパルメイラスといった次のステップとなるクラブへの昇格は叶わなかった。その時、ジョルジュ・メンデスの下で働くひとりのスカウトが 18歳のコスタのプレーを目にする。その実、相手選手を殴ったとしてバルセロナECから120日間のサスペンションを言い渡された直後であるが。

メ ンデスによってコスタはブラガを始めとし、スペインとポルトガルで5つのクラブにローンで在籍、4回の完全移籍と、欧州のクラブを農牧民のごとく転々とし た。その期間は地に足つかず、自信喪失させるようなものであっただろう。それでも、2007年のブラガ、3年前のバジャドリードと計2度メンデスに対しア トレティコに自身を獲得するよう促すことを頼んだほどに、成功を掴むための欲は計り知れなかった。

フットボールはオレの人生で、それ以 外のことをする自分なんて想像もできない。ここに来るまでに幾多の出来事を乗り越えてきた。そして今求められているのは、このレベルを維持すること。世界 最高峰の中で自分の居場所を確保するためには、より良い選手、そしてより良い人間にならなくてはいけないんだ。明日など無いと言い聞かせて、ひたすら努力 し成長するのみ。今は与えられている全てのことに感謝しているよ。周囲から頼りにされていると感じるし、ここに辿り着くまでに通った道のりを振り返ること ができる。願っていたような人生を家族と過ごすことができて嬉しい。これはオレ自身の責任でもある。」

彼がしたのは家族のためだけではな い。ブラジルの北東部サバンナにある、赤いレンガの家が立ち並ぶ閑散とした町ラガルトには、およそ100,000の人々が住んでいる。その町でコスタは、 「ボーラ・ジ・オウロ(直訳して『黄金のボール』)」という名の非利益フットボールアカデミーを支援している。タイヤの跡で荒れ果て、練習さえままならな かった芝で幼少期のコスタはプレーをした。それも今はタバコ・プランテーションの隣のエリアへと場所を移し、設備の充実や組織の構築など、環境は様変わり している。メディカルセンターには、これから更に機能が加えられる予定だ。教室も用意され、外には3つピッチが広がり、そこでは17歳までの地元の子ども たちが約230人に渡って遊んでいる。この変革は、地域にポジティブな影響をもたらしている。

昨年の夏、"ラ・ロハ"の一員としてグルー プリーグ開幕戦オランダとの試合に臨みサルバドールのスタジアムに姿を現わしたコスタには、多くのブラジル人が怒りとともに冷たい声援を送ったが、ラガル トのメインスタンドはスペイン代表のレプリカユニフォームを身に纏う地元の人たちで一杯だった。

「このプロジェクトは、世界最高の選手た ちをクライアントとして抱える代理人の助けのなか、故郷の子どもたちに扉を開くことになればという願いをもって始めたんだ。当時のオレが掴むことのできな かったようなチャンスを彼らははきっと掴むことができる。親と離れることはなく、ドラッグからも手を切り、良い環境に囲まれてきちんとした歩みをするん だ。この地域にとってはポジティブなことばかりだよ。

ラガルトは小さな町でフットボーラーになりたと願う子どもたちにとっては、チャンス なんてほとんどゼロなんだ。だからこのプロジェクトはきっとチャンスを与えてくれるだろうし、ここではしっかりとしたプロフェッショナルたちも働いてい る。まだ成長の段階にあるけど、ピッチやその他諸々のことはオレがここにいた時よりも遥かに良いものが整えられている。食や医療といったサポートもね。困 難な時期にある子どもがいれば先生やコーチがいつだって助けとなる。このアカデミープロジェクトのメインの目的は、あくまでも教育だよ。プロのフットボー ラーたちを輩出することじゃない。授業への出席は義務だ。授業をサボれば練習への参加は認められない。みんながみんなフットボーラーという夢を叶えられる わけじゃないよ。でもこのアカデミーに通うことで、人間として確かに成長することができる。失うことよりも、得るものの方が大きいんだ。


未 来への財産を残そうというその望みは聡明であり、「どんな痛みも通用しない野性味溢れる目つきをした雄羊」というコスタ像とは相反するものである。彼は、 アトレティコ時代リバウンドを押し込もうとゴールポストに衝突し骨が見えるほどに脚を切ったにも関わらず、当時の監督であったディエゴ・シメオネにポスト の方を心配するよう伝えたほどだ。

「切り傷なんかじゃあタイガーは痛がらない。まあ、私が気の毒に思うのはポストの方だ。」と、アトレティコの監督は言う。


「ア トレティコ時代にすでに成長は見せていた。けど、個人的には更に一回り成長したいと年々願っていたんだ。だからこそ、道を示して指導してくれるメンターが いるというのは本当に重要なことだよ。ジョゼ・モウリーニョはいつもオレに何を求めているのかを明確にしてくれている。ただゴールするだけじゃなくハード ワークをしろとね。ハードワークこそが彼の求めることだ。今に至るまで、チェルシーで色々なことが本当にうまく行っている。」

「ここには 昨年シーズンのアトレティコに似た団結力がある。みなが同じ目的を共有しているんだ。グループとして成功するために必要な要素さ。セスクのような選手はス ペイン代表で一緒にやっているというのに加えて、オレの動きを読んでゴールのチャンスを何度も演出してくれる。パスに関しては本当に恵まれたものを持って いるよ。」

このふたりのペアはすでにピッチ上でテレパシーに近い関係を築いているが、それでも、コスタの英国フットボールへの適応の早さには息をのまされるところだ。

来 週、この男はきっと再びピッチ上の闘いへとその身を飛び込ませ、PSGやバーンリーは3週間ものあいだ"お預け"をされていた彼のフラストレーションの爆 発を目にするだろう。コスタは自身のスタイルを曲げないどころか、かつてないほどにその存在感を示したがっている。チェルシーのいたずら好きなバックルー ムスタッフは、最近コスタのことを「Saint(=聖人)」と描写した。では、彼は自身をどう描写するのだろう?

「ああ、それでいこう。オレをSaintと呼んでくれ」


Interview by Dominic Fifield